猫が死ぬ

もうすぐ猫が死ぬ。
顔が大きくて、足が短く、甘いものを盗み食いしてはウマイウマイと言っていた猫。入ってはならないと言われている寝室にもぐりこみ、ごろんごろんとするのが好きだった猫。

彼は毛づやも悪くなり、食事をとれなくなり、排尿することもままならなくなった。よたよたと歩き、たまに悲痛な声でひとつふたつ鳴く。まだ若いのに、おじいちゃんみたいな姿になった。

死なないかもしれない。でも、たぶん、もうすぐ死ぬ。

私は彼の痛みを知ってあげることも、和らげてあげることもできない。まだ赤ん坊だった彼を抱き締めながら言った、守ってあげるからね、は、できないままだった。

私を食ってでも、百年千年生きてほしいと思っている。尾が二つに割れ、躍りをおどるようになり、油をなめて、生きてほしいと思っている。
それでも、どこかで死ぬのは仕方ないことだとも思っている。

私は生き物を飼う資格がない。父が昔「最後まで責任がとれないのならば、生き物なんか飼うべきではない。それがたとえ捨て猫だったとしても、責任がとれないのならば拾って飼うことなど、猫にとって何の救いにもならない。」と言った。私はまだ、最後まで責任をとるということがどういうことか、わからない。

彼は幸せだろうか。どうしてやればよかったんだろうか。もっと幸せになれる方法があったのだろうか。例えば一年前に戻ったとして、私は彼に対する態度をかえるだろうか。彼にとって生きるとはどういうことなのだろうか。

ねこがしぬ。しなないでと私はなく。なくばかりで、私はいまだに何一つわからない。